大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所平支部 昭和38年(家イ)6号 審判

申立人 上野鉄治(仮名)

相手方 検察官 大井恭二

主文

申立人(昭和七年四月一日生)が本籍福島県双葉郡浪江町大字南津島字沼和久○○番地最後の住所同県同郡葛尾村大字葛尾字広谷地○○番地亡上野修(明治二四年一月七日生)の子であることを認知する。

理由

申立人の陳述その他本件記録に徴すると、申立人の実母上野ミサコ(明治三三年八月一日生)は大正四年春頃叔父(母の弟)に当る主文掲記の亡上野修と事実上の夫婦関係を結び、昭和三七年一一月二〇日その死亡に至るまで同棲し、その間スミ(大正一五年一一月一日生)外三名の女子及び申立人(昭和七年四月二一日生)を儲けたのであるが、夫修とは前記の通り三親等の傍系血族に該当し、正式には婚姻できない関係にあつたため、これ等の子を自己の女或いは男として出生届をして置いたところ、その後上野修は前記スミを自己の養子にしたが、その他の子等に対しては生前かかる手続をなさず又認知もしなかつた結果、申立人は従来亡父修と生活を共にし且つその家業の農事に専従して来たに拘わらず、戸籍上その子になつていないため、その遺産相続等に付き支障を来しているので、今回検察官を相手取つて認知の調停申立をなしたことが認められる。そこで、まず検察官が本件調停申立の相手方となる適格を有するか否かを考えてみるに、これを否定する見解がない訳ではないけれども、子の認知訴訟においては、相手方とすべき者が死亡した後には、人事訴訟手続法第三二条第二項第二条第三項によつて検察官を相手方とすべき旨規定されており、これに反して認知調停においてはかかる明文がないのみならず、その法律的性質が訴訟でないことも勿論であるが、その実質は認知訴訟と何等異なるところがないから、相手方とすべき者が死亡した後は、検察官を相手方として申し立て得るものと解するのが相当である。次に検察官は認知調停において申立人の申立原因を認めて合意することができるか否かを考えてみるに、これについても否定する見解がない訳ではないけれども、元来検察官は公益の代表者として認知調停に関与するのであるから、申立人の申立原因を調査した結果、それが正当と認められるならば、率直にこれを認めて合意することこそ、真に本旨に副う職務執行というべく、従つて検察官は前記合意を為し得るものと解するのが相当である。然らば、検察官を相手方にした本件調停申立には、何等これを排斥すべき違法な点はないのみならず、その申立原因も前記の通り確認できるから、これを正当として認容し、主文の通り審判する。

(家事裁判官 鈴木盛一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例